• 7月 15, 2025

アルツハイマー病と向き合う – 最新治療「レケンビ」が拓く、新たな希望とは

みなさま、こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック、院長の斉藤雅也です。

前の記事では「認知症」という大きな枠組みについてお話ししましたが、今回はその中で最も多くの割合を占める「アルツハイマー病」について、特にその原因と、近年登場した画期的な新薬を含めた最新の治療に焦点を当てて、詳しく解説していきます。

認知症と診断される方のうち、60~70%がこのアルツハイマー病によるものだと言われています。もはや特別な病気ではなく、誰もが正しい知識を持つべき時代となってきています。


アルツハイマー病の脳内で起きていること

アルツハイマー病は、脳の神経細胞が通常より早く、広い範囲で壊れていくことで発症します。その背景には、2つの異常なたんぱく質の蓄積が関わっています。

  1. アミロイドβ(ベータ):本来、脳内で作られ分解されるはずのこのたんぱく質が、分解されずにゴミのように溜まり、神経細胞の外側に「老人斑」と呼ばれるシミのような塊を作ります。この蓄積は、症状が現れる10~20年も前から静かに始まっています。
  2. タウ:アミロイドβの蓄積に続き、神経細胞の”骨格”を担うタウというたんぱく質が異常をきたし、細胞内に「神経原線維変化」というかたまりを作ります。これにより、神経細胞そのものが死んでしまいます。

この2つの変化が、記憶などを司る「海馬」から徐々に脳全体へ広がり、脳を萎縮させていくのが、アルツハイマー病の正体です。


アルツハイマー病になりやすいのはどんな人?  

発症のメカニズムは完全には解明されていませんが、以下のような要因がリスクを高めることが分かっています。

  • 加齢:最大のリスク因子です。
  • 生活習慣病:高血圧、糖尿病、脂質異常症は、脳の血管にダメージを与え、アミロイドβの排出を妨げます。
  • 生活習慣:喫煙、過度の飲酒、運動不足。特にアルコールの過剰摂取は、ビタミンB1欠乏を招き、認知症に繋がる「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」を引き起こすこともあります。
  • その他の要因:頭部外傷の既往、聴力低下の放置、睡眠時無呼吸症候群などもリスク因子として注目されています。

これらの多くは、日々の生活習慣の見直しや、かかりつけ医による内科的治療で管理・改善できるものです。


診断プロセス:かかりつけ医から専門医療へ

アルツハイマー病の診断は、他の病気の可能性を一つひとつ除外していくことから始まります。

当院のようなかかりつけ医では、まず患者さまやそのご家族との問診や認知機能検査(長谷川式など)、そして頭部MRI検査を行います。MRIでは脳の萎縮の局在や程度を確認すると同時に、「治療可能な認知症」(慢性硬膜下血腫など)や脳梗塞、脳腫瘍といった他の病気でないかを確認します。

そして、アルツハイマー病が強く疑われる場合、あるいは後述する新薬治療の対象となるかを判断する際には、脳内のアミロイドβの蓄積を直接証明するための精密検査(アミロイドPET検査や髄液検査)が必要となります。当院では、これらの高度な検査が可能な専門医療機関と緊密に連携し、患者さまをスムーズにお繋ぎします。


アルツハイマー病治療の新時代:疾患修飾薬「レケンビ」

長年、アルツハイマー病の薬は、症状を一時的に和らげる「症状改善薬」しかありませんでした。しかし2023年12月、ついに病気の進行そのものに働きかける画期的な新薬が登場しました。それが「レケンビ(一般名:レカネマブ)」です。

レケンビの働き

この薬は、脳内に蓄積した原因物質「アミロイドβ」に直接結合し、免疫の力で脳内から除去します。病気の根本原因にアプローチする、初の「疾患修飾薬」です。その効果は、病気の進行を平均で2~3年程度遅らせることが期待されています。

治療を受けられる方(非常に重要です)

レケンビの治療対象は、「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)」および「アルツハイマー病による軽度の認知症」の方のみです。残念ながら、病気が進行した方や、他の原因による認知症の方は対象となりません。だからこそ、「早期発見・早期診断」がこれまで以上に重要になっているのです。

治療の流れと注意点

治療は、専門医療機関にて2週間に1回の点滴を1年半続けます。アミロイドβを除去する過程で、脳に浮腫や微小な出血といった副作用が起こる可能性があるため、定期的なMRI検査で安全を確認しながら慎重に進める必要があります。


まずは最初の相談から

私自身、大学院時代に鳥取大学で神経病理学を学んだ者として、この「レケンビ」の登場は、アルツハイマー病治療における真の夜明けだと感じています。

もちろん、この薬がすべてを解決するわけではありません。しかし、「病気の進行を遅らせることができる」という新たな選択肢が生まれたことは、患者さまとご家族にとって計り知れない希望です。

その希望の扉を開くための最初の鍵は、やはり「かかりつけ医への早期相談」です。

「もしかして?」と感じたら、決して一人で悩まないでください。当院は、皆様の最も身近な相談窓口として、正確な診断への道筋をつけ、最新の治療選択肢へと繋ぐ役割を担っています。

どんな些細な不安でも構いません。どうぞお気軽に、当院の扉を叩いてください。

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