- 12月 17, 2025
背中から老いる前に!気づかぬうちに進行する「骨粗鬆症」の真の危険性

最近、整形外科の専門医の先生方による骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に関する警鐘を目にする機会が増えました。骨粗鬆症は、骨の密度や強度が低下し、骨がもろくなる疾患ですが、「老いを加速させてしまう」病気であり、特に閉経後の女性にとっては極めて重大なリスクとなります。
骨粗鬆症はかつて「治らない病気」と思われていた時代もありましたが、1990年代以降、骨密度測定方法が一般化され、治療薬が進歩したことで、「コントロールできる病気」に変わっています。
今回は、骨粗鬆症が引き起こす最大のリスク「いつの間にか骨折」のサインと、内科医としても重要視している自宅での転倒予防策、そして最新の薬物療法についてお伝えいたします。
1.痛みがなくても進行する「いつの間にか骨折」の怖さ

骨粗鬆症により骨がもろくなった状態で、もっぱら問題となるのが椎体骨折(圧迫骨折)です。整形外科医は、この椎体骨折を「いつの間にか骨折」と呼びます。
なぜ女性、特に66歳以降に注意が必要なのか?

骨粗鬆症の主な原因は加齢ですが、特に女性の脊柱後弯(背中の丸まり)の発症率は男性の2倍とされます。
これは、女性ホルモンであるエストロゲンが骨密度の維持に働いていますが、閉経(50~60代)後にその分泌が著しく減少するため、骨の代謝が崩れ、骨が急速に弱くなってしまうためです。
その結果、日本人女性の複数の椎体骨折の有病率は66歳以降に急激に増加することが、研究によって明らかになっています。
発生のサインに気づいていますか?
椎体骨折は、激しい転倒や事故などが原因となるものとは異なり、日常生活の最中、例えば物を持ち上げる際や軽い尻もちをついた際に発生するケースが非常に多いです。
さらに恐ろしいのは、骨粗鬆症が引き金となった圧迫骨折は、痛みを生じないケースが非常に多いことです。痛みがないため自覚がなく、X線やMRIを撮影することによって初めて発覚するケースも少なくありません。複数の椎体骨折を放置すると、後弯症(背中の丸み)をよりひどくするとされています。
「いつの間にか骨折」の3つのサインは、以下の通りです。
- 健康診断で身長を測ったら縮んでいた。
- 近しい人から「背が縮んだ」「背中が丸くなった」と最近よく言われる。
- 腰痛はないものの、立っていると疲れやすい。
2.住まいの環境改善と転倒防止の重要性

骨粗鬆症の治療と並行して、骨折を招く「発生の起点」を自宅から取り除くことが、転倒予防において極めて重要です。
内科医として特に重視したい、生活環境での危険ポイントとその対策を紹介します。
| 危険ポイント | 危険な理由 | 対策のヒント |
| 床 | 木質フローリングは滑りやすく、骨折リスクが2倍以上になる報告があります。 | 防滑ワックスを塗る。カーペットは「端がめくれないもの」を選び、つまずきを防止する。 |
| 段差 | 高齢者は1~2cm程度の段差でもつまずく可能性があります。 | 室内の段差解消スロープを購入し、段差を2cm以内にとどめる。 |
| いす・ベッド | 低いと立ち上がる際に背中を丸める前屈姿勢となり、椎体に強い圧力がかかり、圧迫骨折を起こしやすくなります。 | 座ったときにひざが直角になる、高さ40~45cmを目安とする。 |
| 浴室の脱衣所 | 特に冬場は室温差が大きく、ヒートショックを起こしやすくなります。ヒートショックによる転倒は、冬季の骨折原因の約2割を占めます。 | 脱衣所に暖房器具を設置し、リビングなどとの室温差を5℃以内にとどめる。 |
3.薬と生活習慣で「コントロールできる病気」へ

後弯症予防において、最も重要で効果的なのは骨粗鬆症治療です。
骨粗鬆症は、早期に発見できれば、多くの選択肢の中から患者さんに合った治療法を選択できます。
最新の薬物療法の進化
骨を強くするための治療薬は、1990年代以降大きく進歩しています。
- 骨吸収抑制薬: 骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑えます。
- ビスホスホネート薬(アレンドロン酸など):現在でも広く使用されるメジャーな治療薬です。
- SERM(ラロキシフェンなど):骨に選択的に働き、骨密度の維持や椎体骨折予防に有効です。
- 抗RANKL抗体(デノスマブ):皮下注射を6か月に1回おこなう特徴があります。
- 骨形成促進薬: 骨の形成を直接促す薬です。
- 副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチドなど):椎体の骨密度の増加効果が高く、骨折リスクが高い患者さんに特に効果的です。
- ロモソズマブ:骨吸収抑制と骨形成促進の両方の作用を持ち、骨密度の改善が非常に早く、高リスク患者の初期治療に有効と考えられています。
生活習慣の改善も必須

薬物療法と併せて、骨粗鬆症の主な原因となる生活習慣の乱れを改善することが大切です。
- 食事: 骨をつくる栄養素であるカルシウムやビタミンDを十分に摂りましょう。
- 運動: 骨に適度な刺激を与えて骨形成を促進するために、ウォーキングや階段昇降、筋トレなどを行うことが大切です。
- 日光浴: 日光を浴びることも骨の形成を促します。
「ひょっとして」と少しでも思い当たるサイン(身長の縮小、背中の丸まり、立っていると疲れやすいなど)があれば、骨密度を測ったことがない方は、さいとう内科クリニックで骨密度を測定できます。当院では、患者さんの生活習慣や内科的な基礎疾患を考慮しながら、骨折予防のための総合的な健康維持をサポートしています。骨粗鬆症に対して、内服薬だけではなく注射薬による治療も積極的に行っておりますので、ご心配な方は、お気軽に相談ください。
- 院長
- 斉藤 雅也
- 診療内容
- 内科・消化器科
- 住所
- 〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3(駐車場18台あり)
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