• 12月 12, 2025

【医師解説】過敏性腸症候群(IBS)の薬、どう選ぶ?ポリフルの出荷停止・代替薬についても解説

こんにちは。

神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。

「緊張するとすぐにお腹が痛くなる」

「下痢と便秘を繰り返して、毎日お腹の調子が気になる」

日本人の約10人に1人(7〜14%)が悩んでいると言われる過敏性腸症候群(IBS)。

病院で薬をもらっているけれど、「種類が多くてよくわからない」「自分に合っているのか不安」という方も多いのではないでしょうか。

さらに最近、IBS治療のベースとなる薬「ポリフル」の出荷停止というニュースを耳にして、不安に思っている方も多いかもしれません。

今回は、IBSのタイプ別のおすすめ治療薬と、最新の薬の供給事情について、お伝えいたします。


1.まずは自分のタイプを知ろう(IBSの分類)

薬を選ぶ前に重要なのが、自分の症状がどのタイプかを知ることです。国際的な基準(Rome IV)では主に以下の4つに分類されます。

下痢型 (IBS-D)突然の激しい腹痛と水のような便が出る。
便秘型 (IBS-C)コロコロ便で排便が困難。
混合型 (IBS-M)下痢と便秘を繰り返す。
分類不能型おならが多い(ガス型)など

2. 治療のベースとなる「整える薬」と供給問題

IBS治療の基本戦略は、まず「腸の調子を整えるベースの薬」を使い、それでも改善しない場合に「症状を抑える強い薬」を組み合わせることです。

基本の薬:高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)

この薬は、「便秘」にも「下痢」にも効く非常に便利な薬です。

高吸水性ポリマーが主成分で、腸内で水分を吸ってゲル状になります。

  • 下痢のとき: 余分な水分を吸い取って、便を固める。
  • 便秘のとき: 水分を保持して、便を柔らかくしてカサを増す。

いわば「腸内の水分調整役」として、特に混合型IBSの症状の方に効果を発揮するお薬です。

【重要】ポリフルの供給停止・出荷調整について

現在、この成分の代表的な薬である「ポリフル(細粒・錠)」は、製造上の理由などにより、現在「出荷停止」となっています(2025年12月)。

同じ成分を持つ「コロネル」も2024年1月に製造中止になっています。この成分の代替薬として保険適用されている薬は、国内には存在しないため、不安に思われている患者さんも少なくありません。

どうすればいい?(代替案)

もしポリフルが手に入らない場合は、医師や薬剤師に以下の対応を相談してください。

症状別の薬をメインにする

当院では、患者様の症状(下痢メインか、便秘メインか、ガスがつらいかなど)に合わせて、代替案を検討し、適切な処方を行っています。

  • 下痢が強ければ: イリボー(ラモセトロン)などの、腸の動きを整え、便を固める方向に作用する薬へ切り替えます。
  • 便秘が強ければ: リンゼスなどの、便を柔らかくし、スムーズな排便を促す薬へ切り替えます。

整腸剤(プロバイオティクス)を活用する

ビオフェルミンやミヤBMなどの整腸剤をベースにしつつ、症状別の薬をうまく組み合わせます。

漢方薬

ストレスやお腹の冷え、ガスの状態に合わせた漢方薬を検討します。

自律神経を整える

脳でストレス刺激を感じたら、腸の蠕動運動に影響を及ぼします。交感神経と副交感神経のバランスを整える薬を用いることにより、下痢や便秘、ガスといった不快な症状を間接的に改善してくれます。


3.【タイプ別】症状を抑える「攻め」の治療薬

ベースの薬だけでは「すっきりしない」場合、以下の薬を使い分けます。

下痢型の人におすすめ

通勤・通学中や会議中の「急な腹痛・便意」が怖い方には以下の薬が選ばれます。

  • イリボー(ラモセトロン): 腸の運動を活発にする「セロトニン」という物質の働きをブロックします。
    • 特徴: 下痢だけでなく、腹痛や「漏れそうな感覚(便意切迫感)」も改善します。
    • 注意: 男性と女性で服用量が異なります(女性は少なめから開始)。
  • 抗コリン薬(ブスコパン、トランコロンなど): 腸の痙攣(けいれん)を抑え、お腹の痛みを和らげます。ブスコパンは眼圧が上昇するため、緑内障がある方には処方できません。
  • ロペミン(止瀉薬): 頓服(とんぷく)として、どうしても下痢を止めたい時に使用します。

便秘型の人におすすめ

昔ながらの下剤(センナなど)は腹痛が起きやすいため、IBSでは新しいタイプの薬(上皮機能変容薬)が推奨されています。

  • リンゼス、アミティーザ、グーフィス: 腸の中に水分を分泌させ、便を柔らかくして自然な排便を促します。
    • 特にリンゼスは、「お腹の痛み」や「張り」を改善する効果も期待できます。
  • 酸化マグネシウム・モビコール: 便に水分を含ませる、安全性の高い薬です。酸化マグネシウムは、腎機能が悪いと高マグネシウム血症のリスクがあるため、腎機能が悪い方には処方できません。

混合型・ガス型・すっきりしない時

  • セレキノン(トリメブチン): 腸の動きが悪い時は「動かし」、動きすぎている時は「抑える」という調律作用があります。
  • 漢方薬:
    • 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう): お腹が張る、しぶり腹(行ってもすっきりしない)に。
    • 大建中湯(だいけんちゅうとう): お腹が冷えて痛む、ガスが溜まる時に。

4. 薬以外の「食事」と「脳」のアプローチ

「薬を飲んでいるのになかなか治らない」という場合、原因は腸だけでなく、生活習慣や脳にあるかもしれません。

低FODMAP(フォドマップ)食

小麦、乳製品、特定の果物など「発酵しやすい糖質」を避ける食事法です。ガスやお腹の張りに効果的です。

脳腸相関(のうちょうそうかん)へのアプローチ

脳と腸は繋がっています。脳でストレス刺激を感じたら、腸の蠕動運動に影響を及ぼすといった脳腸連関が、IBS症状の出現に大きく関わっています。グランダキシン(トフィソパム)といった交感神経と副交感神経のバランスを整える薬を用いることにより、下痢や便秘、ガスといった不快な症状を間接的に改善してくれます。

さいとう内科クリニックでは、自律神経を整えることにより、間接的にIBS症状を和らげるため、このお薬をよく処方しており、IBS症状の改善につながるケースが多くみられます。また、不安が強い場合は、少量の抗不安薬や抗うつ薬を使用することで、劇的に症状が改善することがあります。

「心療内科の薬?」と怖がらず、医師に相談してみるのも一つの手です。


まとめ:お腹の悩みは一人で抱え込まずにご相談ください

過敏性腸症候群は、命に関わる病気ではありませんが、生活の質(QOL)を大きく下げるつらい病気です。

現在ポリフルの出荷停止という状況にありますが、代替薬や新しい薬(イリボーやリンゼスなど)の選択肢は増えています。当院では、消化器病専門医が、腹部超音波検査なども含め、改めて丁寧に診断し、現時点で最善の治療法を全力でサポートさせていただきます。

「たかが腹痛」と我慢せず、チェックリストで気になる症状があり、今のお薬が入手できずお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。

医療法人社団好也会 さいとう内科クリニック
医療法人社団好也会 さいとう内科クリニック 外観
院長
斉藤 雅也
診療内容
内科・消化器科
住所
〒651-2412
兵庫県神戸市西区竜が岡1-15-3(駐車場18台あり)
(旧:森岡内科医院)
電話
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携帯
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電車
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