【医師が警鐘】「善玉」が高すぎるのも危険？HDLコレステロール90mg/dL以上で要注意。動脈硬化が静かに進むリスクとは

健康診断の結果で、「善玉（HDL）コレステロールが高いですね。これは長寿のサインですよ」と言われ、安心されている方も多いかもしれません。善玉コレステロール（HDL-C）は、血管のお掃除役として知られており、通常は40 mg/dL以上が望ましいとされています。

しかし、近年、この善玉コレステロールが90 mg/dL以上と異常に高すぎる場合、かえって動脈硬化のリスクを高めている可能性があることが分かってきました。これは、善玉コレステロールが「量」は十分でも、その「機能」が低下しているためです。

今回は、この「高すぎる善玉コレステロール」の裏に潜む動脈硬化のリスクと、当院でのチェックポイントについてお伝えします。

善玉コレステロールの「機能不全」が招くリスク

1. 善玉コレステロールの本来の役割

血液中のコレステロールには、主に「悪玉（LDL）コレステロール」と「善玉（HDL）コレステロール」があります。

• 悪玉（LDL）コレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身に運び、増えすぎると血管の壁に溜まって動脈硬化の直接的な原因となります。
• 善玉（HDL）コレステロールは、全身の余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す「血管のお掃除役」を担っています。

2. 数値が高すぎるのに機能しない理由

善玉コレステロールが90 mg/dL以上といった高値を示す場合、本来の「お掃除役」としての機能が十分に果たされていない可能性があります。

これは、HDLがコレステロールを回収・転送する機能を持つタンパク質に遺伝的な異常があるためと考えられます（CETP欠損症などが代表的です）。つまり、血管からコレステロールを引きはがす力（機能）が低下しているにもかかわらず、血液中の数値だけが増加している状態です。

その結果、善玉コレステロールは悪玉（LDL）コレステロールをうまく処理（回収）できず、血管内に余分なコレステロールが溜まり続け、動脈硬化が進展してしまうリスクがあるのです。

3. 放置が危険な理由：サイレントキラーの進行

動脈硬化は、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病によって静かに進行します。脂質異常症自体はほとんど自覚症状がないため、「特に症状はないから大丈夫だろう」と放置していると、気づかないうちに血管が老化し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる重大な病気を引き起こす可能性があります。

高すぎる善玉コレステロールへの当院の対応

HDLコレステロールが高いからといって、すぐに病気であると断定できるわけではありませんが、その機能不全による動脈硬化リスクを放置することはできません。当院では、患者様一人ひとりのリスクを見極めるため、以下のような精密検査と総合的な診断を行っています。

頸動脈エコーによる動脈硬化の判定

頸動脈エコー検査（超音波検査）は、動脈硬化の有無や進行度を直接確認するための非常に重要な検査です。頸動脈は全身の血管の代表であり、頸動脈の動脈硬化の程度から、脳梗塞や心筋梗塞のリスクを推し量ることができます。

高血圧患者さんの診療において、私たちは頸動脈エコーを用いて全身の血管の動脈硬化を判定し、その進行度に合わせて悪玉コレステロールや中性脂肪の治療方針を決定しています。高すぎるHDLが心配な方も、この検査で「今、血管がどれだけ傷ついているか」を見える化することが可能です。

甲状腺機能などの精査

脂質異常症の原因は食事や運動不足だけではなく、ホルモン異常が隠れている場合があります。特に甲状腺機能の低下は、脂質の分解に異常をきたし、脂質異常症につながるケースがあるため、血液検査（TSH、FT4など）で甲状腺機能も確認します。

大切なのは数値の「先」にある血管の状態

善玉コレステロールが高いことは、かつては無条件に「良好」とされてきましたが、その機能が伴っているかが重要です。数値が高いからといって過信せず、血管の状態を客観的に把握し、動脈硬化の進行を防ぐための対策を講じることが、未来の健康を守る最も確実な一歩となります。

当院では、血液検査や超音波検査（エコー）を定期的に行うことにより、体全体をデータに基づいて診察し、安心感を得て頂けるよう努めています。健康診断で高すぎる善玉コレステロールを指摘された方、ご自身の血管の状態が気になる方は、どうか一人で悩まず、お気軽に当院までご相談ください。