- 6月 2, 2025
【肝臓専門医監修】肝機能障害のサインを見逃さない!初期症状チェックリスト

「沈黙の臓器」とも呼ばれる肝臓。私たちの体内で代謝、解毒、胆汁の生成といった生命維持に不可欠な役割を担っていますが、その機能が低下しても初期には自覚症状が現れにくいという特徴があります。しかし、気づかないうちに進行し、肝硬変や肝がんといった深刻な状態に至ることも少なくありません。
この記事では、肝臓専門医の視点から、肝機能障害の初期に見られる可能性のあるサイン、その原因、そしてご自身でチェックできるポイントを分かりやすく解説します。大切な肝臓を守るために、ぜひ最後までお読みください。
肝臓の働きと「肝機能障害」とは?
まず、肝臓が私たちの体でどのような働きをしているか簡単におさらいしましょう。
- 代謝機能: 食事から摂取した栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を体内で利用しやすい形に変えたり、貯蔵したりします。
- 解毒機能: アルコールや薬物、体内で発生した有害物質を分解し、無害化します。
- 胆汁の生成・分泌: 脂肪の消化吸収を助ける胆汁を生成し、十二指腸へ送り出します。
これらの機能が何らかの原因で低下し、肝臓が正常に働かなくなった状態を「肝機能障害」といいます。
見逃し厳禁!肝機能障害の初期症状チェックリスト

肝機能障害は初期症状が出にくいとされますが、注意深く観察すると以下のようなサインが現れることがあります。一つでも当てはまったり、複数の症状が長引いたりする場合は、医療機関への相談を検討しましょう。
□ 全身倦怠感・疲れやすさ: エネルギー代謝の低下や、炎症によりエネルギーが消耗されるために起こります。
□ 食欲不振・吐き気: 肝機能の低下により消化機能が影響を受けたり、有害物質が体内に蓄積したりすることで生じます。
□ 右上腹部の不快感・痛み: 肝臓の腫れや炎症によって、肝臓がある右上腹部に鈍痛や圧迫感を感じることがあります。
□ 微熱が続く: 肝臓の炎症反応により、原因不明の微熱が出ることがあります。
□ 尿の色が濃くなる(褐色尿): 血液中のビリルビンという色素が肝臓でうまく処理されず、尿中に多く排出されると尿の色が濃くなります。
□ 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる): ビリルビンが体内に蓄積することで起こります。初期には白目の部分から黄色くなり始めることが多いです。
□ 皮膚のかゆみ: 黄疸と同様に、ビリルビンや胆汁酸が皮膚に刺激を与えることでかゆみが生じることがあります。
□ 手のひらが赤くなる(手掌紅斑): 特に親指や小指の付け根が赤くなる症状で、肝機能低下によるホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。
□ 胸や肩にクモ状の赤い斑点(クモ状血管腫): 細い血管が拡張し、クモが足を広げたような形に見える赤い斑点です。これもホルモンバランスの変化が関与しているとされます。
□ むくみ(浮腫): 肝臓でのアルブミン(タンパク質の一種)生成能力が低下すると、血管内の水分バランスが崩れ、むくみが生じやすくなります。
□ 出血しやすい・血が止まりにくい: 肝臓で作られる血液凝固因子が減少するため、鼻血が出やすくなったり、アザができやすくなったりします。
これらの症状は、肝機能障害以外の原因でも起こり得ます。しかし、「いつものこと」と自己判断せず、気になる症状があれば専門医に相談することが早期発見への第一歩です。
あなたの肝臓は大丈夫?肝機能障害の主な原因

肝機能障害を引き起こす原因は様々です。代表的なものを以下に解説します。
- ウイルス性肝炎:
- B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス: 日本人に最も多い原因の一つ。血液や体液を介して感染し、慢性化すると肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあります。近年では効果的な治療薬が登場し、ウイルスの排除やコントロールが可能になってきています。
- A型肝炎ウイルス・E型肝炎ウイルス: 主に汚染された飲食物を介して経口感染し、急性肝炎を引き起こします。
- アルコール性肝障害:
- 長期間にわたる過度な飲酒が肝臓にダメージを与え、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、さらには肝硬変へと進行します。飲酒量や飲酒期間、個人の代謝能力などが影響します。
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH):
- 飲酒習慣がない、または少量しか飲まない人でも、肝臓に脂肪が蓄積する病気です。肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病と関連が深く、NAFLDの一部は炎症や線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行し、肝硬変や肝がんのリスクとなります。
- 薬物性肝障害:
- 治療薬の副作用、あるいは健康食品やサプリメント、漢方薬などが原因で肝臓に炎症が起こることがあります。原因物質の中止で改善することが多いですが、重症化する場合もあります。
- 自己免疫性肝炎:
- 免疫システムの異常により、自身の肝細胞を異物とみなして攻撃してしまう病気です。適切な治療を行わないと慢性化し、肝硬変へと進行することがあります。
- 原発性硬化性胆管炎:
- 肝臓の中や外の胆管に炎症が起こり、胆管が硬くなったり狭くなったりする病気です。原因はまだ完全には解明されていませんが、免疫異常の関与が考えられています。胆汁の流れが悪くなることで肝機能が悪化し、肝硬変や胆管癌のリスクが高まります。
- 悪性腫瘍(肝細胞癌、胆管細胞癌、転移性肝癌):
- 肝細胞癌: 肝臓の細胞ががん化するもので、慢性肝炎や肝硬変が主な原因です。
- 胆管細胞癌: 肝臓の中の胆管を構成する細胞ががん化するものです。
- 転移性肝癌: 他の臓器で発生した癌が肝臓に転移してきたものです。
これらの癌は、進行すると肝臓の正常な機能を著しく妨げ、重篤な肝機能障害を引き起こします。
「もしかして…」と思ったら?肝臓専門医への相談と検査

上記のチェックリストや原因に心当たりがある場合は、早めに消化器内科や肝臓専門医を受診しましょう。医療機関では、以下のような検査が行われます。
- 血液検査:
- 肝酵素(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなど): 肝細胞が壊れると血液中に漏れ出す酵素の値。肝障害の程度を示します。
- ビリルビン: 黄疸の指標。
- アルブミン、凝固因子: 肝臓のタンパク質合成能力を反映します。
- 血小板: 肝硬変が進行すると減少しやすいです。
- ウイルスマーカー: B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染の有無や状態を調べます。
- 画像検査:
- 腹部超音波(エコー)検査: 肝臓の形や大きさ、脂肪の蓄積、腫瘍の有無などを調べます。簡便で体への負担も少ない検査です。
- CT検査・MRI検査: より詳細な情報を得るために行われます。肝臓の状態や血流、腫瘍の精密な評価が可能です。
- 肝生検:
- 他の検査で診断が難しい場合や、病気の進行度を正確に把握するために、肝臓の組織を少量採取して顕微鏡で調べる検査です。
これらの検査を組み合わせることで、肝機能障害の有無、原因、進行度を正確に把握し、適切な治療方針を立てることができます。
大切な肝臓を守るために今日からできること

肝機能障害の予防、そして進行を遅らせるためには、日々の生活習慣が非常に重要です。
- バランスの取れた食事: 脂肪分や糖質の摂りすぎに注意し、タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取しましょう。
- 適度な運動: ウォーキングなどの有酸素運動は、肥満の解消や生活習慣病の予防に繋がります。
- 節度ある飲酒: 飲みすぎは禁物です。休肝日を設け、1日の適量を守りましょう。アルコール性肝障害と診断された場合は、原則として禁酒が必要です。
- 定期的な健康診断: 症状がなくても、定期的に血液検査で肝機能の数値をチェックすることが早期発見に繋がります。
- ウイルス肝炎の予防と対策:
- B型肝炎ワクチンは感染予防に有効です。
- カミソリや歯ブラシの共有を避ける、不特定多数との性交渉時にはコンドームを使用するなど、感染経路を理解した予防行動が大切です。
- 薬やサプリメントの安易な使用を避ける: 服用前に医師や薬剤師に相談しましょう。

肝機能障害は、初期には自覚症状が出にくいため、「沈黙の病」とも言えます。しかし、今回ご紹介した初期症状チェックリストや原因を参考に、ご自身の体調変化に注意を払い、少しでも気になることがあれば自己判断せずに専門医に相談することが、肝臓の健康を守る上で最も重要です。
定期的な健康診断を受け、健康的な生活習慣を心がけることで、肝機能障害のリスクを減らし、万が一発症したとしても早期発見・早期治療に繋げることができます。この記事が、皆さまの健康管理の一助となれば幸いです。