- 9月 7, 2025
大人の百日咳、神戸市でも流行中。長引く咳の本当の原因と家族を守る全知識

皆さん、こんにちは。
神戸市西区のさいとう内科クリニック院長の斉藤雅也です。
「最近、なんだか咳が2週間以上も長引いている…」
「風邪だと思っていたけど、夜になると咳の発作がひどくなる…」
そんな症状にお困りではありませんか?その咳、もしかすると単なる風邪ではなく「百日咳」かもしれません。
2025年に入り、近隣の大阪府などでは百日咳の報告数が過去数年で最も高い水準で推移しており、神戸市にお住まいの皆様にとっても決して他人事ではない状況です。
かつて子どもの病気と思われていた百日咳ですが、近年はワクチンの効果が薄れてきた大人に感染が広がり、大人が気づかないうちに家庭内で抵抗力の弱い赤ちゃんにうつしてしまう、という非常に憂慮すべき事態が起きています。
この記事では、百日咳の症状チェックから、治療がなぜ難しいのかという根本原因、そして何よりも大切なご家族を守るための具体的な予防策まで、知っておくべき情報をお伝えします。
大人の症状は“非典型的”|あなたの咳、大丈夫?セルフチェック

大人の百日咳は、子どものような典型的な症状が出にくいために見過ごされがちです。まずはご自身の症状をチェックしてみましょう。
□ 2週間以上、咳が続いている。
□ 最初は鼻水や微熱など風邪のようだったが、だんだん咳がひどくなってきた。
□ 特に夜間や明け方に、激しい咳の発作が起こる。
□ 一度咳き込むと止まらなくなり、息が苦しくなる。
□ 咳き込みすぎて嘔吐したり、顔が真っ赤になったりすることがある。
□ 周囲にも同じように長引く咳をしている人がいる。
□ 目が充血している。
□ 最後に百日咳ワクチンを接種してから10年以上経過している。
百日咳は、「カタル期」→「痙咳期(けいがいき)」→「回復期」という3つの段階で進みます。特に注意が必要なのは、風邪と見分けがつかない最初の「カタル期」です。この時期は症状が軽いにもかかわらず、すでに周囲への感染力が始まっています。
なぜ咳が止まらない?|百日咳の“本当の”原因と治療の難しさ

「薬を飲んでも、なぜ咳だけが良くならないの?」これは百日咳の治療で多くの患者様が抱く疑問です。その答えは、咳の原因にあります。
百日咳の激しい咳は、菌そのものではなく、感染初期に百日咳菌が作り出す「百日咳毒素」が主な原因です。この毒素が、気道の表面にある線毛という組織を破壊し、痰などを排出する機能を麻痺させてしまうため、激しい咳が長く続いてしまうのです。
そして、治療における最大の難点がここにあります。抗菌薬(抗生物質)は「百日咳菌」を殺すことはできますが、一度産生されてしまった「毒素」を分解することはできません。
つまり、特徴的な咳発作が始まってしまった「痙咳期」の段階では、抗菌薬を飲んでも咳そのものをすぐに止める効果は期待しにくいのです。これが、百日咳の診断と治療を難しくしている大きな理由です。
さらに近年、マクロライド系抗菌薬に対して耐性を有する百日咳菌が国内で検出されています。発症2週間以内に治療を開始しても菌の増殖を抑えられないこともあり、百日咳の治療を難しくしています。
診断と治療の実際|さいとう内科クリニックでの進め方

前述の通り、百日咳の治療は時間との勝負です。当院では、症状を詳しくお伺いした上で、迅速な診断と適切な治療方針の決定に努めます。
診断
症状が軽い初期段階では風邪との区別が難しいため、問診に加えて、血液検査(百日咳IgM抗体検査)や胸部レントゲンなどを組み合わせて診断します。
治療
治療の目的は、時期によって異なります。
- 発症初期(カタル期)の抗菌薬:菌が増殖して毒素を出すのを抑え、症状の重症化を防ぐことが目的です。
- 咳がひどい時期(痙咳期)の抗菌薬:ご自身の咳をすぐに止める効果は限定的ですが、体内の菌をなくし、ご家族など周囲の人への感染拡大を防ぐという、非常に重要な目的があります。
咳がひどい場合には、症状を和らげるための咳止めや気管支拡張薬などを併用します。
咳だけじゃない!見過ごされがちな大人の合併症と休業期間の目安

長引く咳は、生活の質を大きく低下させます。
- 合併症:激しい咳き込みが続くことで、肋骨の疲労骨折を起こしたり、不眠や尿失禁に悩まされたりするケースも少なくありません。
- 休業期間:百日咳は学校保健安全法で第二種の感染症に定められています。社会人の場合、これに準じて「特有の咳が消失するまで」または「7日間の適切な抗菌薬治療が終了するまで」を出勤停止の目安とすることが一般的です。お仕事の都合など、状況に応じて診断書を作成しますのでご相談ください。
最も守るべきは“赤ちゃん”|命に関わる危険なサイン

大人が最も注意すべきこと、それは抵抗力の弱い赤ちゃんへの感染です。特に生後6ヶ月未満の乳児にとって、百日咳は命に関わる非常に危険な病気です。

赤ちゃんの場合、大人や幼児のような激しい咳が出ず、呼吸を数秒間止めてしまう「無呼吸発作」や、顔色が青紫色になる「チアノーゼ」といった、見逃しやすい危険なサインで発症することがあります。周囲の大人が「ただの風邪」と軽く考えていると、取り返しのつかない事態になりかねません。
家族みんなで実行する最強の予防策

百日咳から大切な家族を守るために、最も重要で効果的な対策は予防接種です。
① 大人のワクチン追加接種を検討しましょう
子どもの頃に受けたワクチンの免疫は、5年~10年で徐々に低下します。ご自身の感染予防はもちろん、赤ちゃんへの感染を防ぐためにも、大人の追加接種が非常に重要です。
② 赤ちゃんを守る「コクーニング(繭)戦略」
生まれてすぐの赤ちゃんは、まだ百日咳ワクチンを接種できません。そこで、ご両親や祖父母、ごきょうだいなど、赤ちゃんの周りにいる大人が先にワクチンを接種して免疫の壁(バリア)を作り、赤ちゃんを感染から守る。これが「コクーニング(繭)戦略」です。これから赤ちゃんを迎えるご家庭、お孫さんと会う機会のある方は、ぜひこの戦略を実践してください。当院でも、百日咳ワクチンの任意接種に関するご相談に応じております。
③ 日常生活での感染対策
咳エチケット、石鹸による手洗い、アルコール消毒、定期的な換気も、もちろん有効です。
まとめ:長引く咳を放置せず、ご自身と大切な家族のために

大人の百日咳は、ご自身にとっては「ただの長引く風邪」でも、ご家族の赤ちゃんにとっては「命に関わる病気」になり得ます。そして、その感染源の多くが、症状の軽い大人であるという事実を忘れてはいけません。
「自分は大丈夫」と思わず、正しい知識を持って、予防接種と日々の感染対策を家族ぐるみで実践することが、社会全体を守ることにつながります。
さいとう内科クリニックでは、百日咳が疑われる症状の診察・検査はもちろん、予防接種に関するご相談も承っております。2週間以上続く咳や気になる症状がございましたら、どうぞお早めにご相談ください。