- 2月 24, 2025
肝硬変の最新治療法や研究情報

肝硬変は、肝臓の慢性的な損傷により肝組織が線維化し、正常な機能が損なわれる疾患です。日本では約40万人の患者がいると推定されており、その主な原因はB型・C型肝炎ウイルス感染、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、アルコール性肝疾患など多岐にわたります。進行した肝硬変に対する根治的な治療法は肝移植が一般的ですが、ドナー不足や手術のリスクなどの課題が存在します。そのため、新たな治療法の開発が急務とされています。以下に、肝硬変の最新の治療法や研究動向について紹介します。
1. ヒトiPS細胞由来の肝臓オルガノイド移植
東京大学医科学研究所と横浜市立大学の研究グループは、ヒトiPS細胞から肝臓オルガノイドを作製し、これを移植することで肝線維化の改善に成功しました。このオルガノイドは、肝類洞構造や胆管構造を持ち、移植後に炎症抑制性マクロファージを誘導することで、肝機能の回復と線維化の改善をもたらします。
この研究では、ヒトiPS細胞から肝臓の前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞の3種類を分化させ、これらを組み合わせて肝臓オルガノイドを作製しました。このオルガノイドを肝線維化モデルのラットに移植したところ、炎症抑制性マクロファージが誘導され、肝機能や生存率の改善、さらには線維化の顕著な改善が確認されました。この成果は、肝硬変に対する新たな再生医療の可能性を示しています。
2. 自己マクロファージを用いた新規療法
かずさDNA研究所、北海道大学、株式会社メディネットの共同研究により、患者自身のマクロファージを用いた肝硬変の新たな治療法が提案されました。IL-34とIL-4というサイトカインを組み合わせて分化誘導したマクロファージが、肝線維化の進行を抑制する可能性が示されています。
この研究では、IL-34とIL-4を用いて患者自身の単球からマクロファージを分化させました。このマクロファージは、線維化を分解する酵素や肝組織の修復に関与する遺伝子の発現が増加しており、肝線維化モデルマウスに投与したところ、肝臓の線維沈着が明らかに減少しました。さらに、ヒト由来の細胞でも同様の効果が確認されており、自己細胞を用いた安全性の高い治療法として期待されています。
3. 肝星細胞による炎症機構の解明と新たな治療標的
東京医科歯科大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校の共同研究により、肝星細胞が炎症を進行させるメカニズムが解明されました。特に、A20という分子が炎症性肝星細胞への変化を抑制し、DCLK1というリン酸化酵素が炎症を促進することが明らかになりました。DCLK1を抑制することで、肝硬変の進行を抑制できる可能性があります。
肝星細胞は、肝臓の線維化や炎症に重要な役割を果たします。この研究では、肝星細胞におけるA20の欠損が炎症性ケモカインの異常な増加を引き起こし、慢性肝炎や肝硬変の進行に寄与することが示されました。さらに、DCLK1を阻害することで、炎症性ケモカインの産生が抑制され、肝硬変の進行を抑制できる可能性が示唆されています。これにより、DCLK1は新たな治療標的として注目されています。
4. エクソソームを用いた新たな治療法
新潟大学、東京大学、東京医科大学、大阪大学の共同研究により、間葉系幹細胞から産生されるエクソソームが肝硬変の治療に有効であることが示されました。
特に、インターフェロンγで刺激した間葉系幹細胞由来のエクソソームは、肝臓の組織修復を促進するマクロファージを誘導する効果が高いことが明らかになりました。
- エクソソームは、細胞から分泌される小さな膜小胞で、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たします。
- エクソソームには、mRNAやmiRNA、タンパク質などが含まれており、受け取った細胞の機能を調整する作用があります。
- 肝硬変の治療では、幹細胞由来のエクソソームが炎症を抑制し、線維化を改善することが報告されています。
- 近年の研究では、エクソソームを投与することで肝細胞の再生が促進され、線維化の進行を抑える可能性が示唆されています。
- 現在、エクソソームを用いた治療は動物実験段階ですが、今後の臨床応用が期待されています。
5. AIを活用した肝硬変の早期診断と進行予測
近年、人工知能(AI)を活用した肝硬変の診断・進行予測技術が開発されています。AIは、肝硬変の画像診断や血液検査データの解析に応用され、より正確な診断や予後予測を可能にします。2023年には、大阪大学と京都大学の研究グループがAIを活用した肝線維化の進行予測モデルを開発しました。
AI技術の発展により、肝硬変の診断精度が向上しています。従来の超音波検査やCT・MRI画像に加え、AIを活用することで微細な変化を捉えやすくなりました。
例えば、機械学習モデルを用いることで、肝線維化の進行度をスコアリングし、患者ごとに適切な治療戦略を立てることが可能になります。
また、AIによる血液データの解析を活用することで、非侵襲的に肝硬変の進行を予測できるようになっています。これは、肝生検の負担を軽減する重要な進展といえます。
6. 肝硬変の新薬開発と臨床試験の進捗

現在、肝硬変の治療薬として新たな薬剤の開発が進められています。特に、抗線維化薬や抗炎症薬、肝細胞再生を促進する薬剤が注目されています。2024年には、Gilead Sciences社が開発した抗線維化薬「Firsocostat」が第III相臨床試験に進みました。
現在、肝硬変を根本的に治療する薬は存在しませんが、新薬の開発が進んでいます。Firsocostatは、肝線維化の進行を抑制する作用が期待される薬剤であり、肝硬変患者の肝機能改善が報告されています。他にも、線維化を抑えるTGF-β阻害剤や、肝細胞の再生を促進するFGF19アナログなどの開発が進んでおり、今後の治療選択肢の拡大が期待されます。
7. 生活習慣の改善による肝硬変の進行抑制
肝硬変の進行を抑えるためには、日常生活の改善も重要です。特に、食事療法、運動習慣、禁酒が肝機能の維持に大きく関与します。近年の研究では、腸内細菌のバランスを改善するプロバイオティクスの摂取が肝硬変の進行を遅らせる可能性が示唆されています。
- 食事療法: 低ナトリウム食を心がけ、たんぱく質やビタミンB群を多く含む食品を摂取することが推奨されます。
- 適度な運動: 軽い有酸素運動(ウォーキングなど)は肝機能を維持する効果があります。
- 禁酒: アルコールは肝臓への負担を増大させるため、肝硬変の進行を防ぐためには禁酒が不可欠です。
- 腸内細菌と肝硬変: 近年の研究では、腸内細菌のバランスが肝臓の健康に影響を及ぼすことが分かってきました。特に、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)の摂取が肝機能の改善に寄与する可能性が示唆されています。
肝硬変の治療には、再生医療や細胞治療が大きな進展を遂げており、特にiPS細胞由来の肝臓オルガノイド移植が有望視されています。自己マクロファージ療法やDCLK1阻害による抗炎症治療など、新しいアプローチも研究が進められています。さらに、エクソソームを利用した肝再生療法の研究が進み、非侵襲的な治療の可能性が広がっています。AIを活用した肝硬変の早期診断・進行予測技術も向上し、より精密な診断が可能になりつつあります。また、肝硬変の新薬として、抗線維化薬「Firsocostat」やTGF-β阻害剤、FGF19アナログなどの開発が進行中です。加えて、適切な食事、運動、禁酒、腸内細菌の調整といった生活習慣の改善も、肝硬変の進行を遅らせる重要な要素とされています。